辛い食べ物の「期待」が味覚体験を左右する:非対称プラセボ効果

食べ物に対する「期待」によって「食べ物の味覚」が大きく左右されることが、華東師範大学のイー・ルオ氏、米国ウェイクフォレスト医科大学のケネス・キシダ氏らによる、最近の脳科学研究で明らかになりました。特に、辛い食べ物に対する期待が、私たちの脳と体にどのように影響を与えるのかが詳しく調べられています。

研究内容

この研究では、様々な人が辛い食べ物に対して抱く「期待」が、脳の活動や、その食べ物を実際に食べたときの感覚にどう結びつくのかを、脳の画像を調べながら詳しく分析しています。

研究の結果、辛い食べ物を「美味しく感じる」と期待している人は、※脳の報酬系と呼ばれる部分が活発になり、実際に食べたときに感じられる辛さが軽減されることが分かりました。一方、「辛くて辛い」と期待している人は、痛みに関連する脳の部位が活発になり、実際に食べたときに感じる辛さが増強されることが明らかになりました。

ふくやま

これはとても興味深いです。見方によっては料理を食べる前に自分で味を決めているともいえるワケです。

脳の報酬系とは、私たちが何か嬉しいことや楽しいことを経験した時に活性化する脳の神経回路のことです。この回路が活性化することで、私たちは快感を感じたり、その行動を再び繰り返そうとする意欲が湧いたりします。

なぜ期待が味覚に影響を与えるのか?

私たちの脳は、五感から得られる情報だけでなく、過去の経験や周りの情報など、様々な要素を総合的に判断して、外界の状況を理解しようとします。辛い食べ物に対する「期待」も、こうした脳の働きの一つです。

例えば、「このソースはすごく辛いはずだ」という情報があると、脳はあらかじめ「辛い」という状態に備えようとします。そのため、実際にそのソースを口にしたときに、脳は「辛い」という感覚をより強く感じてしまうのです。

ふくやま

このような※非対称プラセボ効果が味覚に対して強く反応することが、改めて明らかになったのですね。

※「非対称プラセボ効果」とは、プラセボ効果が発揮される場面で、片方だけがより強く作用することを指す概念です。通常、プラセボ効果は薬効のない物質や偽の治療でも、患者が「これが効果をもたらす」と信じ込むことで、実際に改善することがあります。

非対称プラセボ効果は、このプラセボの効果が均一ではなく、ある条件や要因によって一方のグループや状況でより強く作用し、他方では弱く作用する現象を意味します。例えば、同じプラセボを用いても、信頼の置ける医師から処方された場合と、そうでない場合とで効果に差が生じる可能性があります。

研究の意義

この研究は、私たちの感覚体験が、単に五感の情報だけでなく、心の持ち方によっても大きく左右されることを示しています。このメカニズムを解明することで、食品開発や、痛みを伴う治療の改善など、様々な分野への応用が期待されます。

今後の展望

今回の研究成果は、私たちの感覚体験に対する理解を深める上で重要な一歩となるでしょう。今後は、様々な種類の食べ物や、より複雑な状況下での実験を通して、期待が味覚に与える影響をさらに詳しく調べていくことが期待されます。

まとめ

辛い食べ物に対する「期待」は、私たちの脳の働きを変化させ、実際に感じる辛さを大きく左右することが明らかになりました。この研究は、私たちの感覚体験が、単に五感の情報だけでなく、心の持ち方によっても大きく左右されることを示唆しています。

参考文献

https://www.sciencedaily.com/releases/2024/10/241008144630.htm

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