整体師としてのキャリアを始めて2年目、ある出来事が私の施術方法を根本的に変えるきっかけとなりました。
そのお客様は閉店時間ギリギリと伝えると「ああん?」と不遜な態度でした。がっちりとした体形の不機嫌そうなその男性は10分でも揉んでくれというので、手が空いていた私が担当したのです。
体はガチガチに硬かったのですが、解れない程ではないなと押していると「もっと強く」と指示されます。さらに力を入れても足りないというので、今度はポイントを狙って解します今度こそ筋肉は緩んできたのですが、そのうちに違和感を覚えました。
筋肉が解れるそばから硬くなっていくのです。
何じゃこりゃ?と思いながら続けていると、違和感の原因が分かりました。筋肉が緩むと同時に力を入れて硬くしていたのです。恐らくワザと。
何してんだ?と思うも時間はあっという間に過ぎ施術は終了。
すると「全然解れてない、力が全然弱い、下手くそ、温泉のマッサージのおじさんの方がまし」など散々文句を言って帰られたのですが、私も含め周りで見ていた人間からも、そもそもクレームを言いに来たんだという事は明白でした。
とはいえまだまだ2年目で経験が足りない私にとっては「そりゃ温泉マッサージのおじさん達はベテランなんだから上手くて当たり前だろう」と思ったのですが、いい気分ではない出来事だったのは確かです。
勿論、私の技術不足もあったでしょう。それは否めません。
が、それ以前から施術中に腑に落ちないものを感じていたのです。路面店という事もありフラッと立ち寄る人も多かったのですが、一定数いるのです。
「何処が悪いとか別にいいから、とにかく強く押してくれ」という方々が。
施術を始めた当初から硬い筋肉をいくら強く押しても全く緩む気はしませんでしたし、時々職場に顔を出す先輩が、いくらでも強く押せるように筋トレしてるんだと、力こぶを見せられても、やはり釈然としません。
後に筋肉に強い刺激をいきなり入れると反射でもっと硬くなるという理屈は分かるのですが、この時は感覚的な違和感を覚え、同時に腹も立てていました。
力が云々という理屈も分からないでもない。けど、それがまかり通ってしまったら、整体師は体育大学出身のマッチョな人しか出来ない職業になってしまうだろうと。
そう一度思いたったらもうダメです。今後力づくの施術は出来る限り行わないと決め、解剖学のテキストや本を読み直し、改めて筋紡錘、腱紡錘の存在を知り、ここがポイントだなと自分なりの結論をつけ、そこに働きかける施術を研究しまくりました。
結果として、当時はかなりの痛みを伴いましたがポイントを刺激して筋肉を緩める手技を生み出すに至り、それは今日まで使う主力のものになったのです。
これによって強押しを求めるお客様の大半は対処できるようになりましたし、症状の改善率もかなり上がりました(それでも患部をただ強く押してくれという人はまだまだ居たので、その時は頑張るしかなかったのですが)
しかしこの激痛の施術もまだまだ発展途上、私の感覚では進化していけば無痛になるはずだと根拠のない確信めいたものは当初からありました。
それから3年ほどかかり、殆ど刺激のない微圧無痛の方法でも効果が出せるようになり、それからずっと研鑽を重ねているのです。現在、氣・エネルギーを感じてヒーリングを行えるのも、この感覚を磨いてきたのが役に立っているのだろうなと考えています。
整体に完全なる答えはありません。もし答えがあるならば、肩こりや腰痛、頭痛はとっくになくなっているでしょう。この仕事を続けるうちは、ずっと修行中の身です。整体の奥深さを実感しつつ、これからも研鑽を積み重ねていくしかないですね。