動悸や息苦しさは、中々他人には伝わらないと聞きます。不安になって、循環器科や呼吸器科を受診したところで、返ってくるのは「心臓も肺も綺麗ですよ、ストレスでしょう」という言葉だけということも少なくはないようです。
しかしながら、実際本人にしてみたら苦しいものは苦しいわけです。
「なんだストレスか」と安心できるなら良いのですが、殆どの場合は「じゃあ、この苦しさはどこから来ているんだ?」と、出口のない不安に陥ってしまうというのは当たり前の感覚だと思います。
当然ながら、動悸や息苦しさの原因を簡単にこうですとは言えませんが、整体的な視点から答えるならばそれは「過緊張」という話になります。町田でも、こうした相談は少なくありません。
呼吸を邪魔する「物理的」な正体
なぜ心臓が悪くないのに動悸がするのでしょう。それは、肺を取り囲んでいる「胸郭(きょうかく)」という鳥カゴのような構造に一つの答えがあります。
まず、肺は自分自身で膨らむことはできません。周りの筋肉や横隔膜が動くことで、はじめて空気が入るようになっているのですが、脳が強いストレスや疲労を感じて「戦闘モード(交感神経優位)」に入ると、自律神経を介して全身の筋肉に「身を守れ」という強い指令が出ます。
これが過緊張の状態です。
この過緊張が起こると、体内で以下の連鎖が発生します。
1.肋骨の間や首周りの筋肉がガチガチに固まり、胸郭が外から締め付けられる。 2.肺が膨らもうとしても物理的なスペースがなくなり、呼吸が浅くなる(息苦しさ)。 3.酸素不足を補うため、心臓が必死に拍動を早めて全身に血液を送り出す(動悸)。
つまり、動悸は心臓の異常ではなく、呼吸がしにくい状態を心臓が必死にカバーするために行う「反応」なのです。
脳が「防衛信号」を止められない理由
では、なぜその緊張は勝手に解けてくれないのでしょうか。ここで関わってくるのが、最新の脳科学でも注目されている「脳のコード(仕組み)」です。
私たちの脳内には、不安を察知する「扁桃体(へんとうたい)」があります。ここが過剰に反応すると、常に防衛反応のスイッチが入ったままになります。
さらに、何もしていない時に働く「DMN(デフォルトモードネットワーク)」が過活動になると、意識は常に「過去の後悔」や「未来への不安」を巡り続け、脳は休まる暇がありません。
この「脳のアイドリング暴走」が、身体に対して「常に警戒態勢を解くな」という信号を送り続け、自分ではコントロールできない過緊張を固定化させてしまうのです。
脳のコードを書き換え、身体を解放する
大切なのは、根性でリラックスしようとすることではありません。脳が出し続けている「防衛信号」を優しく解除し、身体が「今は安全なんだ」と心底納得できる環境を整えることです。
当院で行っている「脳コード」のアプローチは、単に筋肉を揉みほぐすことではありません。神経系への適切な刺激を通じて、脳の警戒を解き、自律神経を「休息モード」へと切り替えるお手伝いをすることです。
施術を受けて「動悸」のトリガーになっていた不安症が落ち着いてきたと喜んでくださる方もいらっしゃいます。
動悸や息苦しさは、あなたの身体が「もうこれ以上、頑張りすぎないで」と必死に伝えてくれているサインでもあります。それに気づくことで、はじめて人は自分の体へ関心が向き、何とかしようと思いはじめます。
であれば、次にやることは体を整える方向へと意識を運ぶことです。まずご相談ください。一緒に、体が安心できる状態を取り戻していきましょう。
参考資料
今回の内容は、以下の神経生理学・解剖学的な知見に基づき構成しています。
1 ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論) スティーブン・ポージェス博士が提唱した、自律神経の階層構造に基づく防衛反応の理論。 2 デフォルトモードネットワーク(DMN)の過活動に関する神経科学研究 脳の安静時における活動が、慢性的ストレスや身体緊張に及ぼす影響についての知見。 3 呼吸補助筋の運動生理学 斜角筋、小胸筋等の過緊張による胸郭コンプライアンス(膨らみやすさ)低下のメカニズム。 4 心身医学における心臓神経症の臨床知見 器質的疾患のない動悸における、中枢神経系と末梢神経系の相互作用に関するデータ。
