太極拳が自律神経にいい理由——ゆっくり動くことが、なぜ緊張をほぐすのか

「太極拳」と聞くと大抵の人の頭に浮かぶのは、高齢者が公園に集まって早朝にやっているイメージでしょう。

実際、その光景は日本のみならず世界共通でみられるものなので、間違いはありません。

ゆっくり動く安全な体操。

まさしくそのイメージの太極拳。しかしてあのゆっくりした動きこそが、自律神経に作用しているのです。

目次

「ゆっくり動く」ことの神経生理学

パッと速く動くと交感神経が上がるとうのは、感覚的にも分かると思います。

その流れで、ゆっくり動くと交感神経が下がっていくというのも、何となく頷けるでしょう。

ここで、少し解説を挟みます。

筋肉の中には2種類のセンサーがあります。

筋紡錘とゴルジ腱器官(GTO)というものです。

筋紡錘は筋肉が急に伸ばされたときに「危険」として脳に信号を送り、反射的に筋肉を縮めるという特性があり、緊張が抜けない人ほど、この筋紡錘が過敏になっていることが多い傾向にあります。

一方のゴルジ腱器官は、筋肉に持続的なテンションがかかったときに「もう緩めていい」という信号を送る抑制装置として働きます。

そういった観点からみると、急激な伸張を避けながら持続的なテンションをかける太極拳のゆっくりとした動きは、筋紡錘を刺激せずにゴルジ腱器官を活性化させるという、緊張を解くための条件を満たしているといえるでしょう。

※武術的な激しい太極拳は除きます。

「律動」が脳幹に届く

もう一つの良い所は、動きの反復性にあります。

太極拳の動作は、重心を左右に移しながら同じパターンを繰り返すことが多いのですが、この律動的な固有受容覚への入力が、小脳から脳幹へのループを通じて自律神経の調整に関わってくるのですね。

※「律動とは」一定の周期で繰り返される動きや音に、__強弱・速度・調和__が加わったリズムのことです。単なる機械的な反復ではなく、全体のバランスが整った「生きた流れ」を指します。

慢性的に過緊張している人の多くは、この脳幹レベルの調整が低下しており、ストレスや疲労の蓄積で、神経系が「高めに設定されたまま戻らない」状態になっているのですね。

律動的な身体入力は、このデフォルト設定をちょっとずつ動かします。もちろん一回で劇的に変わるものではありませんが、神経系の基準値は繰り返すことで少しずつ動くという性質がありますので、継続することは有効な手段になり得るのです。

呼吸が「自然に」変わるという強み

太極拳の動きに合わせて身体を動かすと、腕を広げるときに吸気が入り、重心を落とすときに呼気が長くなります。これはそう指導されているというより、動きの構造上そうなるのです。

この呼気の延長が、自律神経に対して直接作用します。

呼気が長くなると、心拍が少し下がるのですが、これは迷走神経(副交感神経の主要な経路)が活性化しているサインで、呼吸性洞性不整脈(RSA)と呼ばれる現象です。
RSAの振れ幅が大きいほど、迷走神経のトーンが高く、自律神経の回復力が高いとされています。

ストレス対策として「深呼吸してください」とよく言われますが、漫然と呼吸を意識するだけでは前頭前野(考える脳)が余計に動いて効果が半減することもあります。

それに比べ、動きに引っ張られる形で呼吸が変わるというのが、太極拳による呼吸の実用的な強みとなります。

「考えなくてもできる」が条件になっている

自律神経の調整を妨げる最大の要因の一つが、先にあげた前頭前野の過剰な活動です。考え続けること、反芻すること、先の見通しを立てようとすること……これらが交感神経を持続的に反応させます。

太極拳の動作は、覚えてしまえば意識的な判断をほとんど必要としません。

つまり身体が自動的に動いている状態になるのです。

この「考えていない」状態が、前頭前野の負荷を下げ、皮質下の自律調整が動きやすい条件を作ります。

太極拳をやらない人への話

ここまで読んだ方のなかには気付いた方もいると思います。

「だったら別に太極拳でなくてもいいのでは?」と。

それは全くその通りで、太極拳でなくても、以下の条件が揃っていれば同じ理屈が働きます。

  • ゆっくり、律動的に動く
  • 急激な筋の伸張を伴わない
  • 考えなくてもできる動作の繰り返し
  • 自然に呼気が長くなる

ゆっくりした散歩、ゆったりとしたストレッチの反復、水の中での歩行など、私はたまたま太極拳の初級指導員の資格を持っているので、太極拳を例にあげましたが、条件を意識すれば、手段は太極拳でなくていいわけです。

おススメはラジオ体操をゆっくり行うことです。ラジオ体操には大抵の人の体に、動きが刷り込まれているという利点があるからです。

ただ一点だけ注意があります。

何に限らず「リラックスしよう」と意識しすぎると、その意識自体が前頭前野の活動になってしまいます。

あくまでも目的を持たずに動くというのが、大切なのですね。そういった意味では、それらしい理由がないと行動できない現代人の多くが過緊張の状態であることの示唆にもなっている気がします。

慢性的に張っている、疲れが抜けない、という状態が長く続いている方は、ここ記事の内容を参考にしてみてください。

太極拳はその一つの形として、とても理に適った構造をしているので、おススメですよ。



このように、体から整えてみたい方は、ぜひ一度ご相談ください

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